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【会計の世界史を読んで】ロックとアートと会計のコラボが面白かった!

2021年8月25日

久しぶりに面白い本を読みました。

会計が誕生して今に至るまでの歴史を、素人にも分かりやすいように優しく面白い文体で書かれています。

私が魅かれたのは、記事タイトルにもあるように「歴史と音楽」をほどよく織り交ぜているところです。

歴史は学生の頃からの趣味で、とくに世界史は大学入試のためにものすごく勉強したので、今でも教科書に載っている主な流れをほぼ暗記しています。

音楽は別ブログでもレビューしているように、小学生の頃から洋楽ロックやポップスを聞き続けているので、これもかなり共感できたところ。

このように個人的な好みがふんだんにちりばめられつつ、さらに難解だった会計についての基礎知識を丁寧で分かりやすい文体で説明してくれているので「分かった」気にさせてくれるのですね。

そんなワールドワイドな視点とロックなスパイスで描かれた会計の世界史。

あくまで自分が理解したり、興味をもった箇所になりますが、これからレビューしていこうと思います。

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簿記はイタリアで生まれた!

イタリアというとパスタとかピザ、ローマの遺跡など美食や観光のイメージが強い国なので、簿記という堅苦しい分野とは無関係だと思われがちです(自分はそう思ってました)

しかし実は簿記の起源はイタリアだったという事なんですよ。

15世紀のイタリアはいくつかの都市国家に分かれていて、中国をはじめとした東方貿易が盛んな時代でした。

数多くの商人が国内外を行き来する中、道中の危険を避けるために「為替手形」を発明します。

現金や財宝を持ち歩いていては襲われたり奪われる恐れがあるためです。

これで商人はキャッシュレスになって移動することができ、さらにそれを授受するための「銀行」が発達したというわけなんですね。

さらにそうした取引を記録するために発達したのが「簿記」

なるほど。

ここで銀行と簿記が誕生するのかと。

必要は発明の母と言われますが、当時のイタリア商人の経済上の必要性から生まれたものが、現在まで世界中で使われているということなんですね。

バランスシートってなんだ?

次に出てくるのが「商売を始めるための型」の説明です。

新しく事業を始める時は、まずは自分自身で資金「自己資金」を用意するところから始めます(貯金など)

この部分を「資本」といいます。

それでも足りない分は、銀行から融資を受けて用意する「借入金」で補います。

これを「負債」と呼びます。

これら2つを商売を始めるための「種金」いわゆる「調達資金」となり、それを使って商売に必要なものを買いそろえていくわけです。

そうやって揃えたものを「資産」と呼びます。

調達部分で資金を用意し、資産を使って運用していく

それが商売の基本の型となります。

【調達】

資本(自己資金)と負債(借入金)

【運用】

資産:商売に必要なもの(当時なら香辛料や現金、船など)

バランスシートとは、調達部分と運用部分を左右に置いて、ビジネスでのお金の流れを一見して分かるようにした図式です。

商売がうまくいったときは、調達部分が少なく運用部分が大きくなりますし、失敗した時は逆になります。

上手くいったときは少ないお金でビジネスの利益を膨らませることができたということで、調達部分の下に余ったお金が入ってきます。

これで左右のバランスをとるという感じになるわけです。

バランスシートの基本的な図式は以後も変わりませんが、資本(自己資金)を調達する構成部員に変化が出てくるので、それが時代の変化をみるようで面白いですね。

バランスシートの資本の変化が面白い!

資金の調達を担う借入金は銀行などでほぼ変わりませんが、自己資本の構成は時代によって変わってくるというところは興味深い記述でした。

会計の黎明期ともいえるイタリア時代は、シンプルに自分で用意したお金と記されていましたが、時代が下ってオランダの大航海時代になると「株主」が出てきます。

これは初期の個人で商売を行うビジネスモデルと違って、大船団を組んでアジアとの貿易に乗り出したオランダやイギリスの会社がより大きな資金を得るために、見知らぬ人からお金を集めて運用する(貿易)モデルに変化したためだといいます。

いわゆる個人経営から株式会社経営に移行したという感じですね。

なので、資金の調達部分である「資本」のところに株主という新たな構成要員が入ってきたということ。

これが16世紀のことですから、すでに世界は「資本主義経済」に入っていたということになりますね。

ちなみに資本の構成要員は国によって異なったようで、イタリアでもヴェネツィアは「家族・親族」、フィレンツェは「仲間」、そしてオランダは「見知らぬ人(株主)」となっており、このあたりの国による違いも世界史好きには色々と考察ができて面白い部分です。(今にも続くイタリア人の個人主義的な性格、オランダ人の集団・合理主義的な性格が出ていて面白い)

さらに最終形態としては「ファンド」が資本の構成要員として20世紀に登場し、より経営(運用)に大きな影響力をもつようになるということ。

ファンドとは運用に出資する投資家などの代理人であり(投資ファンドなど)、出資者に対して「儲け」を稼がないといけないために、より運用部分に口出しをするようになります。

メーカーの社長に銀行から出向した社員が就任するニュースを時々見ますが、あれもファンドを運用する銀行が出資者に利益に出るように、直接的に出資先の会社の経営に関与するようになった典型例なのだと思います。

本書を読む限りでは、現段階ではファンドが資本の最も新しい構成要員とされていますが(と自分は読み取ってます)、去年の暮れあたりにアメリカで話題になった「ゲームストップ株」の高騰で力を増した「個人投資家」も、今後ここに今後参入してくるプレーヤーっぽい流れを感じますね(スマホアプリの発展で個人が気軽に株式投資をできるようになったため)

ポール・マッカートニーと企業価値

会計の本質はイタリアで銀行が誕生して以来「仮定の数字よりも、実際の取引数字が大切」であるとされてきました。

しかし近年では、目に見える資産よりも「目に見えない資産」を評価する姿勢が注目され始めています。

その具体例として挙がったのがビートルズ。

デビューして売れ始めた初期の頃にバンドがレコード会社と交わした契約が、その後の大きなトラブルの原因になります。

その内容は「楽曲の権利を会社に譲渡する」ということ。

若き日のメンバーはこの重要さを理解できずに、言われるがままにサインしたといいます。

この会社ノーザンソングスは後に株式公開し、誰でもが株式を購入できるようになりました。

自分達の作った曲で稼いだお金が自分たち以外の誰かに流れていくことに我慢がならなくなっていたポール・マッカートニーは、ジョン・レノンの死後、代理人になっていたオノ・ヨーコと相談して株式の買い取りを試みます。

しかしこのときマイケル・ジャクソンがポールらの提示していた2000万ポンド(当時のレートで90億円)を上回る5300万ドル(当時のレートで130億円)で権利を購入したのでした。

曲の権利というのはなかなか厳しいもので、たとえ自分が作った歌でも他人に権利があれば、その他人にお金を払って歌わなければいけません。

結局はマイケルの死後に権利をもったレコード会社と和解できたそうですが、本書でも「具体的な和解の内容は分からない」としてあるため、全面的に権利を買い取れたわけではなさそうです。

こうしてポールマッカートニーの長年の願いは半ば叶ったのか、叶っていないのか分からないままで終わっているのですが、本書が面白いのは、オノ・ヨーコとポールのやりとりと、マイケルの姿勢の違いを現代の会計評価の変化に繋げている点です。

ポールが2000万ポンドで曲の権利の買取を行う時に、共同の契約者だった(と思われる)ジョン・レノンの代理人オノ・ヨーコが「2000万ポンドは高い。500万ポンドなら買ってもいい」と言ったため、すぐに買い取りが進まなかった経緯がありました。

その隙にマイケル・ジャクソンが5300万ポンドの額でポーンと買い取ったということです

このときの両者の姿勢の違いが以下にようにまとめられています。

【オノ・ヨーコ】

⇒支払うコストに意識がいっている

【マイケル・ジャクソン】

⇒リターンに意識がいっている

マイケルの内心の思いを想像した記述がより分かりやすく「5300万ドルは全然高くない。ビートルズの曲がどれだけ稼ぐかを考えれば安いくらいだ。問題はそれが”いくら稼いでくれるか”なんだ」

としており、まさにこれが現代の会計評価のトレンドの一つ「目に見えない資産を見る」時価評価・企業価値につながる考え方だとしているのですね。

人と芸術に敬意を寄せる筆者の文体が心地よかった

「イタリア⇒オランダ⇒イギリス⇒アメリカ」へと舞台が移り変わっていった会計の世界史。

その歴史の流れの中で会計の専門的な知識を経済だけでなく、芸術や人の気持ちにも思いを寄せて書かれている筆者の作風はものすごく好感が持てますし、共感できます。

たとえばオランダの会計の歴史の中で大きな役割を果たした画家のひとり、レンブラントの栄光と挫折、その悲しい人生の最後についても、彼の描いた絵「放蕩息子の帰還」についての評価の部分でグッときました。

この絵には、若き日には見られなかった柔らかいタッチに優しさがあふれています。

真の優しさはつらい思いをした人間だけが理解できるものなのかもしれません。

願わくば天国の彼もこんな優しい光で包まれていますように。そう祈らずにはいられません

ほかにも鉄道の発展に力を尽くしたイギリスの鉄道技術者ジョージ・スティーブンソンの生涯と、彼の引退後の日常の風景、死の直後の追悼など、敬意と優しさに満ちた文章で心地よくさせてくれます。

これが会計の歴史だけを追った内容であれば、私もそこまで心を掴まれなかったかもしれません。

筆者の語り掛けるような柔らかで優しい文体、人々に対する敬意溢れた姿勢が最後まで飽きずに引き込まれたポイントかもしれませんね。

まとめ

移りゆく人の思い、経済の流れ、会計の歴史・・・

人が作った社会基盤は人によって発展し、維持されていくのだとしみじみと感じました。

今回取り上げさせてもらった内容はほんの一部ですので、基本的な会計の知識について学びたい方にも対応できている豊富な内容になっていると思います。

文体だけでなくイラストも文字の大きさや行間もすごく読みやすくなっているので、会計の歴史を俯瞰で知りたい方にはぜひともおすすめしますよ。


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